第2章 潜移暗化 第1節
「先生、出雲の卒論ができました。ゼミで発表する前に見て頂こうと。」
さとしはたつやの部屋を開けるなり、嬉しそうな顔をして挨拶もせずにいきなり、たつやに話しかけた。
「さとしくん、できたのか。どれどれ見てみましょう。」
「先生の意見をお聞かせ頂いて書き足したいと思います。」
「題名は、『出雲での交わりと鉄器文化』か。なかなか面白そうだね。」
たつやは、さとしの卒論をさっと目を通した。さとしは釘いるようにたつやが読んでいる姿を見ながら、たつやの一声を待っていた。
「はじめを読んだ感じでは、出雲民族がどのようにヤマト王権と交わり、日本人として同化していく。うーん、出雲民族は朝鮮半島から渡って来たとさとしくんは考えているのですね。」
「以前、ケイコさんと同席したときに、先生は縄文人が食料難で朝鮮半島に渡った人達もいると言われましたが、ここは定説通りにしました。」
「この辺りが古代史の謎だし、面白いところ。さとしくん、朝鮮半島と日本の地図を開いてみなさい。」
さとしは、地図と言われて先生が何を考えておられるのか、理解出来ずに本棚から地図を持ち出し、朝鮮半島と日本列島が載っているページ、正面に日本列島をたつやが見えるように開いた。
「さとしくんの方から、日本列島を見てください。」
「大陸側から、日本を見るのですね。先生、韓国の釜山から福岡までは近いですけれど、出雲もわりと近いですね。」
「釜山は、昔、新羅の国だった。いや、三韓時代には弁韓。その辺りから船を出航すると日本の姿は、北九州と山陰と北陸の辺りが最初に見える。」
「確かに、私の方から日本を見ますとそのように見えます。」
「日本人は、普通、太平洋側を下にして、日本海側を上に。そして、韓国を上に見ますよね。物事は上から下へと流れてくるように勘違いしてしまう。」
「つまりは、発想の転換なのですね。」
「日本の文化の源は、大陸から来たのは確かですが、果たして人はどうだったのでしょうか。その辺りはまだ解明されていませんね。ただ、糸魚川の翡翠が朝鮮半島で発見されたという事実だけでは決め手にならないですからね。」
「では、やはり、その当時の人は行ったり来たりしていたのですね。それが、縄文人なのか。それとも、中国の人達だったのかがわからない。」
「日本から朝鮮半島に渡るから縄文人。朝鮮半島から日本に渡るから渡来人と決めつけることは危険です。」
「三内丸山の人達は、縄文人ですよね。」
「さとしくん、もう一度そちらから地図を見てみてください。ロシアのウラジオストクからだと青森県は近いでしょ。それよりも、日本海に流れている対馬暖流は、北九州から山陰、北陸、東北に沿って北に流れていて、韓国の釜山辺りから出航すると対馬暖流に流されて、青森辺りまで行ってしまう可能性はありますね。また、北朝鮮の江原道元山市からも直接青森県まで行ける海流もあります。そして、その地で永住してしまい、その地にいた原住民と交わってしまいます。また、その原住民も更に昔に大陸から渡って来た人達かも。ですから、日本人の源が原住民である縄文人と考えるのも危険です。ただ、縄文時代に日本に住んでいた人達として縄文人と括るのは、学問上しかたがないことですけれどね。」
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