第6章 殷鑑不遠 第1節

 大学校内も日差しがきつくなり、いよいよ夏休みが近づいてきた頃、たつやの部屋に青柳良祐がやって来た。
 「やぁ、りょう君。入りなさい。」
 「先生、今日は沖縄から来ている大城陽介君を連れてきました。」
 「陽介君もどうぞ。沖縄ですか。沖縄のどの辺りの出身ですか。」
 「私、沖縄本島の南にある知念岬辺りで、知念高校から東京のこの大学に入学しました。」
知念岬から見た久高島 「陽介君がこの夏に沖縄に帰るというので、私も沖縄を旅行して来ようと思っています。」
 「それでしたら、久高島にも行かれたらいいのでは。」
 「久高島ですか。」
 その時、大城陽介が青柳良祐の肩をたたいて。
 「良祐、それがいい。久高島は、アマミキヨという神とニライカナイ(神の世界)という伝説がある島ですからね。」
三庫理から眺む久高島 「アマミキヨ。それは、アマテラスではなくて。」
 「ニライカナイにいる太陽神、東方大主がアマミキヨを最高の聖地、久高島のクボー御嶽(祭祀場)に臨降させるのですね。それと、久高島の中ほどにあるイシキ浜には、五穀が入った壷が流れてきて、それから久高島、沖縄本島へと穀物が広まったという伝説があります。ニライカナイは、古事記に書かれている根の国にあたるのでは。」
 「古事記では、アマテラスはイザナギとイザナミの子として扱われています。ニライカナイもそれらしい神がいたのですか。」
シルミチューの洞窟 「沖縄本島中東部のうるま市にある浜比嘉島には、久高島と同じように神話伝説があり、ニライカナイから女神であるアマミキヨと男神のシネリキヨが降り立ち住み着いたと言われるシルミチューの洞窟がある。沖縄には洞窟がたくさんあるからね。アメリカが沖縄に攻めてきたときに沖縄の人達はそのような洞窟に避難したようです。」
 「浜比嘉島辺りは、今、ホテルが建築されてリゾート地になっています。良祐、大泊ビーチ大泊ビーチに泳ぎに行くか。」
 「陽介、それもいいけれど。僕は沖縄の神話に興味があるなぁ。先生、アマテラスのような食物起源神話やイザナギとイザナミの創生型神話が沖縄にもあったのですね。よく似た神話が沖縄にもあったのですね。」
 「国立民族学博物館名誉教授だった伊藤幹二先生によると、日本と沖縄の神話を比較しておクボー御嶽られて、イザナギとイザナミのオノゴロ島の国生み神話とアマミキヨが島々をつくる神話はよく似ていますが、風による妊娠、原祖の地中からの出現、原祖の漂着、犬祖などの神話は沖縄しか見られないと述べられています。久高島が最高の聖地である七御嶽があり、ノロ(祈願行事の司祭をおこなう祝女)が御嶽で祈祷する習慣は沖縄や奄美諸島にしかありません。久高島は沖縄本島から見て、太陽が昇る東方信仰(太陽信仰)の聖地だったのです。」
 良祐はたつやの話を聞いて、沖縄の先史時代に興味が湧いてきた。


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