第2部 漢委奴国王印 第9章 一の宮にて
 
 イベズカサの船は、宗像の集落に着いた。すると、イベズカサの孫のコシノアカネがイハレビコの側にやって来た。
 「イハレビコ君、これからどちらに行かれるのですか。」
 「そうですね。兄が手掛けている一の宮に行こうと思います。オホノミカデオミ様やカモノカサメルネ様も連れて行かねばならないし。」
 「私もお供させてください。お爺様には、先ほど会って、イハレビコ君にお供する事を許してもらいました。」
 「それでは、一緒に行こう。」
 「今日は、宗像の集落にお泊りください。明日早朝に、一の宮に向けて出発しましょう。」
 イハレビコ達は、娜国を通り過ぎて、大宰府の集落で一泊して、九重連邦を左に見ながら、阿蘇山が見える一の宮に近づいて来た。
 「オホノミカデオミ様、どうかなされたのですか。」
 「これが、阿蘇の鉄鉱石ですか。今、拾いました。」
 「そうです。私も、以前この辺りに来て、鉄鉱石を拾いましたから。」
 「これから、この鉄鉱石を採取して、鉄器を生産していくのですね。」
 「そのため、新たに一の宮の集落を建設しているのです。そして、オホノミカデオミ様とカモノカサメルネ様がこれから中心になって。」
 「分かりました。これからが楽しみです。」
 「若君、あそこに。」
 「ミチノオミ、どうした。」
 「あの集落が一の宮の集落ですか。」
 「うん。りっぱな集落が出来上がっている。さすがに、イツセの兄様じゃ。」
 イハレビコ達は、一の宮の集落に向かって、足早になった。一の宮の集落はすでに環濠も集落の周りに出来上がっていた。
 「兄上、ただいま戻りました。」
 「ご苦労さまでした。まぁ、募る話もあろうが、今日は、この一の宮でゆっくりと旅の疲れを取られよ。先ずは、食事を用意させるから。」
 イハレビコ達は、その日、食事を取り、速やかに床に着いた。そして、翌朝、改めてイツセと面会した。
 「兄上、一の宮の集落も完成しましたね。」
 「大君は、私をこの一の宮の集落に住ませるつもりらしい。」
 「一の宮は、これから日向の国の要になる集落ですから。」
 「そうだな。それで、山戸の国はどうであった。」
 「その前に、オホノミカデオミとカモノカサメルネを紹介しましょう。」
 イハレビコの後ろに控えていたオホノミカデオミとカモノカサメルネは、イハレビコの前に出て来て、お辞儀をし、また、イハレビコの後ろに座った。
 「この者が、これから兄上の手助けをします。」
 その後、イハレビコはイツセに山戸の国の話をしながら、イハレビコの祖先が周の国が西周から洛邑に移動した東周になった頃、周の高貴な貴族が倭に移住したと聞いていますとワニノカスガワケが言った事を思い浮かべていた。
 「兄上、私達の祖先が周の国の貴族であった事をご存知ですか。」
 「そんな話、大君から聞かされていない。そうだ、この一の宮の集落を見に、数日後、おいでになられる。その時に、大君に聞こう。」
 イハレビコとイツセは、山戸の国の土産話が終わり、将来の日向の国についての話に移っていった。
 「兄上、これから、一の宮が日向の要になるのですから、この地で鉄器を生産して軍事力を強化せねばなりません。」
 「軍事力。」
 「そうです。この一の宮を守るため、若いては日向の国を守るためです。」
 「鉄器の生産は、稲作の増産、言い換えれば、国力を上げるためではなかったのか。」
 「そうです。鉄器を使用して、水田の灌漑工事を速やかに行い、稲作の増産により、国の財政が裕福になり、我ら部族の人々が稲作以外の作業にも着手できるようになります。そうすれば、軍事力も強化できます。」
 「稲作の増産のために、山戸の国に行って、鉄器生産のためにオホノミカデオミとカモノカサメルネを連れて来たのではないか。」
 「私も、最初、山戸の国に渡る頃までは、そのように考えていました。」
 「では、何故、今になって軍事力の強化なのだ。」
 「そうですね。先ずは、娜国です。あの国は、私達が周の国の貴族であったかは定かではないですが、私達の祖先はかなり昔に稲作の技術を持って、この日向の国に漢の国から渡って来たことは事実です。それなのに、今の日向の国は娜国に比べて遅れています。」
 「娜国の部族は、韓の国から渡って来たのだろ。」
 「確かに、韓の国から渡って来たのですが、彼らの文化や生活形式を見ていると、私達と同じように周の時代まで遡れます。漢の国にいた部族も混じっていますから。」
 「韓の国の部族は、皆、鉄器製造技術を習得している部族ではないのか。」
 「韓の国のすべての部族は、同族ではないのです。漢の国からきた部族もいれば、東夷の国からきた部族もいます。鉄器製造技術も北方から齎された技術もあれば、漢の国の中心部から齎された技術もあり、南方からも若干ですが齎されています。」
 「韓の国がひとつの民族ではなく、他民族の国なのか。」
 「山戸の国に行って分かったのですが、韓の国にはかなりの小国家が存在しています。そして、その各々の国から筑紫の国に渡ってきて、娜国のような国を形成しているのです。だから、日向の国は軍事力を強化して、娜国のような新興の国と戦わなければなりません。筑紫の国が韓の国からきた部族によって、占領されています。」
 「娜国の大君は、漢の皇帝より国王印を頂戴して、日向の国などを含めた私達の領土の国王として認めさせたのでしょう。」
 「だから、兄上、我々は軍事力を強化させ、我々が日向の国以外の領土を治め、我らが統一された国土の真の国王にならねばなりません。」
 「分かった。軍事力の強化だな。鉄器をこの一の宮で生産して、武器の強化を図るのだな。大君がこの一の宮に来られた時に、進言してみよう。」
 イハレビコとイツセの会話から、将来、この二人が日向の国を出て、倭の国まで東征を図ることになるとは、この時点では二人とも知る余地もなかった。
 イハレビコがイツセに山戸の国の報告を終え、イツセが用意してくれたイハレビコの仮住居に帰ってきた時、山戸の国に同行したミチノオミとアマノタネキとコシノアカネがイハレビコを迎えた。
 「若、お帰りなさい。イツセ様とはどのようなお話をされたのですか。」
 「山戸の国のことや鉄器のことをお話してまいった。それと、軍事力の強化の話も。」
 「軍事力の強化ですか。必要ですね。」
 「ミチノオミには、これからがんばってもらわないと。」
 「承知しました。」
 「コシノアカネ、そちにお願いがあるのだが、軍船
を作れるか。」
 「軍船ですか。作れますとも。」
 「若、軍船をどうされるのですか。」
 「鉄器を生産することになれば、鉄を使った頑丈な船、軍船を用意しようと思っている。それには、コシノアカネが必要なのだ。」
 「分かりました。イハレビコ君のお力になります。」
 「それから、この一の宮の数日後、大君が来られるそうなので、それまで我々はここで滞在することになった。」
 イハレビコ達は、夏の阿蘇山を眺めながら、阿蘇山から吹き降ろしてくるそよ風を感じながら、大君の到着を待っていた。
 「若、大君が一の宮に到着されました。イツセ様の使者によると至急に宮殿の方に来るようにとのことです。」
 「分かった。ミチノオミとアメノタネキ、着いて参れ。」
 イハレビコが一の宮の宮殿に到着した頃には、大君は居間の中央に座っておられた。
 「イハレビコ、山戸の国の勤め、ご苦労であった。先ほど、オホノミカデオミとカモノカサメルネに会ったぞ。」
 「大君も、この一の宮まで長旅お疲れでしょう。」
 「今先ほど、イツセから聞いたのだが、この一ノ宮の集落を軍事力の拠点にすると。そうだな、鉄器を生産し、その余禄で軍事力の強化か。それもよいことだ。今度の皆が集まった時に、これからの日向の国の方針の中で、軍事力の強化も入れるようにしよう。」
 「ありがとうございます。」
 「この後、宴をはじめるので、イハレビコの山戸の国の土産話など聞かせておくれ。」
 それから、数時間たって、夕暮時に宴が始まった。最初に、久米衆の久米舞から始まり、大君の左横にイツセが座り、右横にイハレビコが座った。宴も中盤に入った頃、イハレビコは大君に山戸の国の話をし始めた。
 「イハレビコ、山戸の国はそのようなことになっているのか。」
 「はい、大君、娜国のような新興国家が筑紫の国に出来てきているのも、山戸の国からの渡来系なのです。そこで、日向の国も軍事力の強化が必要と感じました。」
 「私のお爺様、アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギがこの日向の高千穂に天孫降臨されて、日向の国を治められたから、この国を守らなければならない。」
 「山戸の国にワニノカスガワケという人がおられまして、私の祖先は周の国の貴族の出だと言われるのです。大君は何かその辺のことをご存知ですか。」
 「そんな話を聞いたのか。私のお爺様が日向に来られる前の話だな。お爺様がこの日向に到着された時、従えてくれたのが、ミチノオミの祖先、アメノオシヒとオホクメの祖先、アマツクメなのだ。アマツクメは元々か海運術を持っていて、漢の国から海を渡って、お爺様をこの日向まで届けてくれたのだろう。アメノオシヒは、漢の国でお爺様に使えていた軍人だったのではないだろうか。私達の祖先が漢の国から渡って来たことは事実ですが、漢の国のどの地方の出身かは、私にも分からない。」
 「そうなのですか。」
 「私の父、アマツヒコヒコホホデミは、ヤマサチビコとも呼ばれ、狩りが得意であったことは知っている。伯父にウミサチヒコがおられ、漁を得意にしておられたので、我らの祖先は、山にも近く、海か大河に近いところにおられたのかも知れない。」
 イハレビコは大君の話を聞いて、イハレビコの祖先が漢の国から日向に渡来した事が確認できた。
 その宴も終わり、イハレビコはミチノオミとアメノタネキを連れて、仮住居にかえってきた。そして、数日後、コシノアカネをその仮住居に残して、高千穂の宮殿に向けて出発した。


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