第2部 漢委奴国王印  第1章 帰郷(2)
 
 「若、ニギハヤヒは何故、筑紫の国から姿を消したのでしょう。」
 「タシト、私も疑問に思っている。」
 「ニギハヤヒには、何か目的があったはずです。」
 「マラヒトはその事について、如何だ。」
 「ガリサミ様の所へ、ヒカレミ様が来られた時に、ニギハヤヒの話でガリサミ様が天の岩船かと言われた事を思い出しました。」
 「天の岩船。」
 「それにしても、漢の国や韓の国から渡って来ているな。」
 「そんなに良い国なのですかね。私達の国が。」
 「やって来たって、よそ者扱いをしないし、第一、政には関心がないようだし。一部の者だけでやっとけばよいと言う感じかな。」
 「政に関心があるのは一部の者だけなのですね。」
 「よそ者が来て、困る者だけだ。よそ者が来て、いろいろな技術を伝えてくれるのは、ありがたいことだ。」
 「今回、旅をして分かった事は、集落はたくさんあるけれど、必ずしも、纏まっていないことです。」
 「だから、アマテラス様が私に、豊葦原の瑞穂の国を治めよとの仰せなのだろう。」
 「あ、そうか、ニギハヤヒは豊葦原の瑞穂の国を治めるため、筑紫の国を出て、倭の国に行ったのではないですか。」
 「そうかも知れないな。」
 イハレビコ達は、遠賀の集落から沿岸線に沿って進み、豊の国に入り、足一騰宮を通って、臼杵の集落に入った。
 「イハレビコ君、よく戻られた。」
 「アマテラス様に、草薙の剣を奉納してまいりました。」
 「こちらの居間に入られよ。ラサトモも来ておるからな。」
 「アマテラス様から、何かお告げがあったかね。」
 「お爺様、アマテラス様は、私に豊葦原の瑞穂の国を治めるようにと。」
 「豊葦原の瑞穂の国と。水と稲作を中心に、生活をしている国々のことだな。」
 「豊葦原の瑞穂の国とは、倭の国の事ではないのですか。」
 「倭の国も、瑞穂の国の一部じゃ。」
 「お爺様にお会いする前に、遠賀の集落のヒカレミ様に会って、ニギハヤヒの話を聞いてきました。ニギハヤヒの子孫ウマシマヂが倭の国にいるのです。」
 「ニギハヤヒか。漢の国の扶余から来たワイの部族だな。」
 「倭の国には、他にも韓の国から来た部族もいました。」
 「確かに、倭の国は瑞穂の国の中心的な国だから。」
 「倭の国にサルタビコの部族がいて、ニギハヤヒが倭の国にやって来て、サルタビコのニワ一族と戦って、ニギハヤヒに倭の国を追い出され、サルタビコの部族が各地に散らばったと言う話もありました。」
 「サルタビコか。私達の部族より先にこの地に辿り着いた部族や。」
 「え、お爺様の部族もこの地に。」
 「昔の事だが。漢の国に楚(河南省の南陽の周辺)呉(江蘇省の上海の周辺)の国と越(淅江省の杭州の周辺)の国があって、呉が越に滅ぼされ、越が楚に滅ぼされた頃にこの地に渡って来た。」
 「サルタビコの部族は。」
 「キン族と言って、台湾やそれより南の島からこの地に渡って来たのさ。日向の国の隼人の集落の部族もキン族ですよ。」
 「倭の国に宇陀の集落があるのですが、その部族もキン族だと聞きましたが。」
 「多分、台湾やそれより南の島から韓の国の南端に渡ったキン族が、筑紫の国に渡って来たのだろう。」
 「伊勢の国の丹生の集落に行った時、オオヒルメとワカルヒメ姉妹の話を聞いたのですが。」
 「オオヒルメ様ですか。若君の祖先に当られる方ですね。」
 「オオヒルメがアマテラス様ですか。」
 「オオヒルメとワカルヒメ姉妹も、私達と同族でね。楚の国に越の国が滅ぼされた時の呉の国出身のヒメで、私達と一緒にこの地に渡って来たのです。」
 日本のことわざに臥薪嘗胆(がしんしょうたん)とか呉越同船とかがあるが、中国の春秋時代に呉の夫差と越の勾践の戦いや越が楚に滅ぼされる前に、越と呉が力を合わせて戦った逸話から出た故事成語である。また、北陸地方の事を昔は越後とか言われたのも、日本の弥生時代に中国の杭州付近から渡って来た部族がいたと言う話もまんだら嘘ではない。
 「お爺様、いろいろな話を聞かせて戴いてありがとうございました。疑問に思っていた事が分かりました。」
 「イハレビコ君、日向に帰られても、お爺の所へ来なさい。また、ウサツヒコ大君やウサツヒメ様にもお会いなされよ。必ず、力になって戴けるから。」
 イハレビコ達はワタツミに別れを告げ、祖母山の谷間を通って、アジキの集落に出た。そして、アジキがイハレビコ達を出迎え、アジキの集落で一夜を過ごした。早朝、いよいよ、大君のいる高千穂の宮に向かった。
 「大君、ただ今、戻ってまいりました。」
 「イハレビコ、どこまで行っていたのだ。心配しておった。」
 「伊勢の国まで行き、アマテラス様に拝顔してまいりました。」
 「アマテラス様に会って来たか。」
 「旅の話は、後日に聴こう。旅の疲れを取りなされ。」
 イハレビコは日向に帰り、今まで張り詰めていた気持ちが、穏やかになるのを感じていた。


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